2019年度付中通信第4号 多様性ってなに?

2019.6.28  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

もう3年近く前になりますが、2017年10月9日付の保護者宛文書で私、校長宮本は、

「さて、次期学習指導要領では探究学習の重要性が大きくクローズアップされています。本校においても学びに向かう力の養成に今後一層意を尽くすべきだと考えています。つきましては、第2学期の中間考査明けから「総合的な学習の時間」を、ゼミ形式の探究学習ができる形式に改め、中学校所属の教員全員が講座を一つずつ担当して実施することに致しました。(中略)

※ 探究学習とは,対話を通じてさまざまな観点から物事を考え課題を発見し、複数の方法を考え出したり検討したりしながら答えを導き出す学習です。

高水式探究学習

?ゼミは大学の学問系統と教科の枠組みを意識し設定しています。

?ゼミは異学年で構成します。云々・・・・(後略)」

と述べて、探究学習の時間をスタートさせました。それで、私も今年、3度目の探究学習の時間を担当することになりました。私の今年のゼミのテーマは「多様性社会をどう生きる?」というものです。ゼミへの勧誘を進める会で私は、生徒諸君にこんなメッセージを発してアピールしました。

「AI化・グローバル化、そして少子高齢化が21世紀の日本を考え、国際社会の中で生き抜く上で欠かせない3つのテーマです。これらに共通した課題に多様性の受容と克服が挙げられます。例えば、外国人労働者やLGBTを巡る問題。目をそらさず考えていきましょう。」

過去2年間、AI化とグローバル化が進む世界をイメージしながら、生徒諸君に将来の職業の具体的なイメージを描いてもらい、その職業の価値について一緒に考えてきました。ここで痛感させられたことは、これまでの時代や社会の価値観と世界観を前提にした職業観は、きれいさっぱり捨て去らなければならない、ということでした。

与えられたノルマを効率よく忠実にこなす、そして時と場合によっては、期待された以上の成果を出す。だいたいこんなところで、私たちの生きてきた社会ではよかったと思います。もちろん、こんな仕事ぶりがいけないわけではないのですが、これで許されるレベルの仕事は、早晩AIにとって換わるということから、子どもたちの未来を私たちは想像できなくなっていく訳です。

さてさて、多様性。ダイバーシティとか言ったりすると、企業の人材登用、多様なニーズをどう処理するかなどという観点に集約してしまいがちですが、このゼミでは、もっと素朴に考えてみたいと思っています。

世界でいちばん多様性が尊重されている国はどこか、ごぞんじですか?

カナダ!だって言われています。本校にはカナダ人のケイト先生が貴重なネイティブスピーカーとして授業を展開してますが、彼女にいろいろと質問することで、何かわかってくるんじゃないか!とか、今年度はそんなフィールドワーク?!をいろいろ行って、さらにコミュニケーション能力も培いながら「多様性」の神髄に近づいてみたいと考えています。

 

 

2019年度付中通信第3号 平和の祈り

2019.5.30  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

5月23日に中3生の諸君と大津島の回天記念館に行ってきました。本校は大津島を中3生の「平和学習」の地に選び、数年前から通うようになりました。

太平洋戦争末期、「天を回らし、戦局を逆転させる」という願いを込めて、人間魚雷「回天」は誕生しました。これは、魚雷に大量の爆薬を搭載し、隊員自らが操縦して敵艦に体当たりするという特攻兵器で、隊員の訓練基地が置かれた大津島には、全国から20歳前後の精鋭たちが集まり、毎日厳しい訓練を繰り返していました。

「平和学習」の地として、それまでは広島の平和記念資料館に足を運んでいました。館内を見学したり被爆体験を語り部の方から伺ったりしていました。それが今のように回天記念館に変わってきたのは、もちろん広島に近いこともあって、生徒のほとんどがすでに平和記念館を訪れ学習済みだということもあります。しかし、それ以上に回天記念館は戦争そのものの真実に近づける施設だという判断があったからです。

国家には常に利害関係がついて回ります。今この時もそうです。例えば韓国からは徴用工や従軍慰安婦の問題等、日本の過去の戦争責任について清算と慰謝が不十分だと言われ続けています。それに対して日本人が原爆の惨状を語る時はどうか。米国を名指しで非難し賠償を求めようとしてきたか。それができないのは日本が敗戦国であり、正義は戦勝国にあったからです。だから国益を前提にした平和教育には限界があり、正しい平和教育ではないと思います。戦争とは何か、そこに突き進む人間の弱さと愚かさを認識させ、戦争がもたらす悲劇と不条理を真っ向から教え、それを否定する力を身につけさせてこそ真の平和教育だと考えています。

広島原爆から導き出される平和教育は、原水爆の廃絶を訴え、その延長線上で戦争を否定する「平和教育」につなげて行くことです。それに対して回天は、前述のような意味で真の平和教育への道筋をダイレクトに示してくれていると思います。

戦争を引き起こさないためには、過去の戦争が起こったメカニズムを研究し、そうならないための知恵を出し合うことが何よりも重要な課題です。しかし、こと平和教育に必要なコンセプトは戦争を普遍的に捉え、戦争そのものを徹底的に否定する信念を養うことだと考えます。

 

 

 

2019年度付中通信第2号 学園発祥

2019.4.23  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

4月16日に新入生とスプリングセミナーに行ってきました。このセミナーではまず、学園発祥の地、周南市高水を訪問します。

以前は、米作りを中1の恒例行事としていて、田植えや稲刈りなどでこの地をよく訪れたものです。旧高水村のあった現周南市の烏帽子岳山麓、岩徳線の高水駅のほど近い所に学園の前身である旧制高水中学校はありました。

米作りは、この中学校を卒業された当地にお住いの先輩を頼って続けてきました。しかし、学園は今年、岩国転出(高水から岩国へ校舎を移したこと)65周年となり、最年少の先輩でも80歳をとうに超えてしまい、お世話をしていただけなくなりました。米作りを学校行事に取り入れた小中学校は数多いと思いますが、本校のような関係性の中で実施してきた学校は、たぶん他に例を見ないのではないでしょうか。そう言う意味で、たかちゅう(旧制高水中学校の当地での愛称です)と現付属中をつなぐ正に尊い行事でした。だから、これがなくなったことは、残念の一言では済まされないという気がしています。

それからかつては、亀山の旧校舎跡地で楽学碑を前に、旧制中学校時代の思い出を語ってくださっていた坂田先輩(94才)にも足を運んでいただいていました。今はそれも叶わなくなり、校長の私が、坂田先輩の言葉を思い出し、記憶があいまいなところは少し勉強して、新入生にかつての学校のことや生徒の様子などお話ししています。話しながら私は、3つのことに特に念を入れました。

まず、亀山の地で高水は5年制の旧制中学校として山口県下にその名を轟かせていたこと、そしてその伝統が戦後の6年制教育に引き継がれたこと。

2つ目は、かつて高水中学校は「たかちゅう」と呼びならわされ、地域の人たちに愛されていたこと。

そして3つ目は、李氏朝鮮時代に両班(やんばん)として地方を支配した人たちの子弟を受け入れ、戦後帰国した彼らは、たかちゅう教育を公正公平な教育として尊び、恩師の遺徳を偲び、教育者となって多くの方が大成したこと。

2019年度付中通信第1号 志高く!

2019.4.1  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

今、世界は劇的に変わろうとしています。
AI(人工知能)によるデータ収集や解析技術の進歩は機械を「自律化」させ、IoT(モノのインターネット)によって第4次産業革命が着々と進展しています。
また、グローバル化によって、各国各地域は緊密に結びつき、経済活動が地球規模で繰り広げられる中、私たちは多様性との調和に苦しんでいます。

さらに日本では少子高齢化が急速に進み、地域産業の衰退は言うまでもなく地域そのものの消滅が叫ばれ始めています。
21世紀前半を生きる私たちは、次から次へと新たな課題に頭を悩まさねばなりません。

しかし、どんなふうに社会が変化しようと私たちの願いに変わりはありません。

私たちはどうしたら生き甲斐のある充実した人生を歩めるのか。どうしたら幸福になれるのか。
そして、そのために教育は子どもたちに何ができるのか。

それを、自分の好きな分野で他人をしあわせにしたいと願い、それを実現しようとする意志、すなわち志(こころざし)を育む教育に求めたいと思います。
なぜなら、人のしあわせも志を果たす過程にあると考えるからです。

本校は長い伝統と歴史を持つ学校です。その中で昔と今を貫いて今日皆さまにご紹介できることが3つあります。
この3つの方法によって、子どもたちの志を立ち上げ、大切に育んでいきたいと思っています。

まず、中高一貫教育です。知徳体のバランスの取れた人格の育成は、無駄と無理を拭い去った6年間を見通した教育課程の下で円滑に進めることができます。
次に、探究的な学びをこの教育課程の中に取り入れていくことです。身の回りにある問題を発見し、そこから課題を汲み取り、解決していく力をつける教育が求められています。
3つ目に、校外活動の活性化があります。地域社会の人々や他校の生徒との交流による新しい出会いと体験が、生徒の経験値を高め、広い視野から問題を見つけることを可能にするからです。

以上により、2019年度の付中(中高一貫教育課程)の教育目標を次のように掲げます。

1.学習指導要領改訂を踏まえ、中高一貫教育の利点を生かした特色あるカリキュラムの編成を目指して、各教科においてシラバスの再編及び再構築を図る。
2.タブレットを含むICT教育機器を活用しながら、アクティブラーニングから探究的な学びへと学びの質のさらなる向上を目指す。
3.ユネスコスクールの利点を生かし、国内外を問わずできるだけ多様な世界に触れる機会を提供し、生徒の経験値を高める。

 

2018年度付中通信第17号 ANNMIコンサート

2018.12.17  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

今年一年振り返っていたら、付中通信に「ANNMI」について書いていないと気づきました。

「ANNMI」とは、Asia / America New Music Institute=アジア・アメリカ現代音楽協会の呼称です。ANNMIは米国の作曲家チャド・キャノンにより2013年に設立されました。新しい音楽文化交流をアジア各国とアメリカとの間に繋ぐことをその目的として活動が開始。

ヴァイオリニスト五嶋 龍氏をはじめ日本の著名なソリストも名を連ね、世界各地の音楽祭に参加をして、その訪問先たる国々の演奏家と共に、作品を発表することによって、現地の音楽家との交流をはじめ、それぞれの国の文化背景を持つ若い作曲家達の新作への関心や理解を深めることなどを目的に活動を続けているのだそうです。
AANMIは訪問先各地で学校訪問、ワークショップやパネルディスカッション、或いはユースオーケストラ指導などのアウトリーチ活動や地域への音楽貢献を積極的に行い、現在までにニューヨーク・ボストン・ロサンゼルス・ユタ、北京・天津、韓国、そして日本(沖縄)タイ・ベトナム・シンガポールなどで活動し大変な好評を得てきました。

そのANNMIの、世界的にも有名な若手音楽家たち12名によるミニコンサートが6月20日に本校で開催されました。ANNMIは、米国大使館及び米日財団の支援により、日米親善のためのコンサートツアー(演奏会・講演会など)を、6月11日(月)~22日(金)の間、京都を皮切りに西日本各地で行い、その一環として、中高生らとの交流を柱にした学校訪問を希望していました。

山口県内においては、ANNMI代表者が作曲を担当した映画「ペーパーランタン」で縁の深い岩国柳井地域の学校が候補に挙がり、本校が選ばれたのでした。

中学生が現代音楽、しかも生演奏に触れられる機会はめったにないし、世界の最先端を走る名立たる音楽家たちに出会える機会もまずありません。これが私たちの追求する音楽なんだと、中学生にとってはかなり刺激の強い体験ではなかったかと思いました。

当日来校された音楽家の方々・・・

チャド・キャノン(代表者・作曲家)、
梅崎康次郎(尺八)、
マイケル・アヴィタビーレ(フルート)、
デイヴィッド・デイアズイエル(クラリネット)、
ゼナス・シュー(ヴァイオリン)、
ジェシー・クリステソン(チェロ)、
小杉紗代、
スン・ヨン・パーク、
伊藤琢磨、
カルロス・サイモン、
その他総勢12名

 

 

 

2018年度付中通信第16号 中六講演会

2018.12. 3  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

中高一貫教育の生徒を対象に毎年1回、外部講師を招聘して講演会を開催してきました。今年度は11月7日(水)、東京で活躍されている大村医師に登壇していただきました。
先生は、耳鼻咽喉科の外科医として鼻の奥にできた腫瘍を取りの除く手術では、この分野における日本の第1人者と呼べる医師です。
この手術は、脳外科医とタッグを組んで二人がかりで行うもので、先生自身が考案されたオリジナルな術法も世界中で高い評価を受けています。言わば、「神の手」の持ち主として、先生の手術を受けるために日本中、いや世界中から患者さんが集まってくるということでした。

先生は教育にも深い関心を持たれていて、若い世代の可能性を引き出したい、できれば何かそのことで役に立ちたいという熱い思いの中で今回の講演を引き受けていただくことになりました。

当日は、医療の進歩と医療で命を救うことに高い志を抱いて今まで努力に努力を重ねてきたこと、そして、中高生たち若い世代がこの志を受け継いでいってほしいと熱く語られました。
講演が終わってからも生徒たちの興奮は冷めやらず、多くの生徒が会場に残り、先生は質問攻めにあい、生徒らの関心の高さがよくわかりました。
そういう意味では、過去最高の中六講演会であったと思います。

また、先生は毎年1回、日本の耳鼻咽喉科のトップ医師による医療チームを組織してカンボジアでの活動をもう10年以上に亘って続けてこられました。
そういう思いの中で、中高生に現地での活動を直接見て感じてほしいという願いから、岩国ユネスコ協会が来年3月に、中高生を対象としたカンボジアへのメディカルスタディーツアーを企画することになりました。実は本校からも4名がこのツアーに参加することが決まっています。

まさにスーパードクター、何から何まで感服することばかりでした。
以下大村医師の略歴を紹介しておきます。

大村和弘(おおむらかずひろ)
東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科教室

2004年 東京慈恵医科大学卒業
イギリスセントトーマス病院での短期臨床留学、総合病院国保旭中央病院で初期臨床研修、
救急救命科の後期研修を経て、2006年UCLAの短期臨床実習を終了。
2006-2008年までNPO法人JAPAN HEARTを通じて、ミャンマーでは村々を回り、
被災地に根付いた文化や医療システムを活かした支援、
また、カンボジアではJICAの短期専門家として現地の救急医療スタッフ育成に従事。
2016年より大学病院での活動の傍ら、2017年NPO法人Knot Asiaを設立。
遠隔コミュニケーションシステムを利用し医療や日本国内をはじめ韓国の医学生の教育に携わり、
特にアジア諸国とのより良い関係構築に貢献。
現在は、「医療と教育でアジアを繋ぐ」「気道トラブル0」「美しい手術」、この三つを
モットーに、フィールドは日本を越え、アジア各国でも医療活動・レクチャーを継続し、活躍中。

実際の活動の動画は下記URLから https://www.youtube.com/watch?v=Umka5g-PTMA