2019年度付中通信第3号 平和の祈り

2019.5.30  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

5月23日に中3生の諸君と大津島の回天記念館に行ってきました。本校は大津島を中3生の「平和学習」の地に選び、数年前から通うようになりました。

太平洋戦争末期、「天を回らし、戦局を逆転させる」という願いを込めて、人間魚雷「回天」は誕生しました。これは、魚雷に大量の爆薬を搭載し、隊員自らが操縦して敵艦に体当たりするという特攻兵器で、隊員の訓練基地が置かれた大津島には、全国から20歳前後の精鋭たちが集まり、毎日厳しい訓練を繰り返していました。

「平和学習」の地として、それまでは広島の平和記念資料館に足を運んでいました。館内を見学したり被爆体験を語り部の方から伺ったりしていました。それが今のように回天記念館に変わってきたのは、もちろん広島に近いこともあって、生徒のほとんどがすでに平和記念館を訪れ学習済みだということもあります。しかし、それ以上に回天記念館は戦争そのものの真実に近づける施設だという判断があったからです。

国家には常に利害関係がついて回ります。今この時もそうです。例えば韓国からは徴用工や従軍慰安婦の問題等、日本の過去の戦争責任について清算と慰謝が不十分だと言われ続けています。それに対して日本人が原爆の惨状を語る時はどうか。米国を名指しで非難し賠償を求めようとしてきたか。それができないのは日本が敗戦国であり、正義は戦勝国にあったからです。だから国益を前提にした平和教育には限界があり、正しい平和教育ではないと思います。戦争とは何か、そこに突き進む人間の弱さと愚かさを認識させ、戦争がもたらす悲劇と不条理を真っ向から教え、それを否定する力を身につけさせてこそ真の平和教育だと考えています。

広島原爆から導き出される平和教育は、原水爆の廃絶を訴え、その延長線上で戦争を否定する「平和教育」につなげて行くことです。それに対して回天は、前述のような意味で真の平和教育への道筋をダイレクトに示してくれていると思います。

戦争を引き起こさないためには、過去の戦争が起こったメカニズムを研究し、そうならないための知恵を出し合うことが何よりも重要な課題です。しかし、こと平和教育に必要なコンセプトは戦争を普遍的に捉え、戦争そのものを徹底的に否定する信念を養うことだと考えます。